不眠症について
不眠症とは(症状の全体像)
不眠症は「眠れない」こと自体だけでなく、睡眠の問題が続き、日中の生活に支障(つらさ)が出ている状態を指します。
代表的な症状は次の4つです。
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入眠困難:寝つくまでに時間がかかる
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中途覚醒:夜中に何度も目が覚める、目が覚めると戻れない
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早朝覚醒:予定より早く目覚めてしまい、再び眠れない
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熟眠感の欠如:眠ったはずなのに回復感がない、寝た気がしない
不眠症は、睡眠時間の長さだけで決まるものではありません。睡眠の質や、日中の集中力・気分・意欲・疲労感などの影響が重要です。
不眠症がもたらす日中の影響(受診の目安)
不眠が続くと、以下のような影響が出やすくなります。
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強い眠気、ぼーっとする、居眠り
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集中力・判断力の低下、ミスの増加
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疲労感、倦怠感、回復しない感じ
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気分の落ち込み・不安の増大、イライラ
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意欲低下、対人場面の負担感
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頭痛・肩こり・胃腸不調など身体症状の悪化
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運転・作業の危険性(特に眠気が強い場合は重要)
「寝不足そのもの」よりも、日中のつらさが続くことが治療の大きな理由になります。
不眠症の原因(起こり方を3つの要素で整理)
不眠は「原因が一つ」というより、いくつかの要素が重なって続くことが多いです。臨床では次の3つで整理すると理解しやすくなります。
1) きっかけ(誘発因子)
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仕事の繁忙、異動、対人ストレス、家庭環境の変化
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体調不良(風邪、痛み、咳、かゆみ)
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時差、夜更かしの増加、生活リズムの乱れ
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カフェイン・アルコールの増加
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災害・事件など強い不安体験
2) 続かせる要因(維持因子)
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「眠れないかもしれない」という睡眠への不安・恐怖
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早寝しようとしてベッドで長時間過ごす
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布団の中で考えごと・反省・スマホ・仕事の計画
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休日の寝だめ、朝寝坊、長い昼寝
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寝る前の刺激(SNS、ニュース、動画、ゲーム)
3) 体質・背景(素因)
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不安になりやすい性格傾向、完璧主義、過覚醒になりやすい
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うつ病や不安症など精神的背景
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慢性疼痛、アレルギー、呼吸器・心疾患など身体的背景
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加齢(睡眠が浅くなりやすい、途中で目が覚めやすい)
不眠症のタイプ(経過・持続期間)
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一過性の不眠:数日〜1週間程度(強いストレスや体調不良がきっかけ)
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短期不眠:数週間
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慢性不眠:おおむね3か月以上続く(生活・認知のクセが維持因子になりやすい)
慢性化すると、「眠れない → 不安が増える → さらに眠れない」という循環が強くなり、治療は“生活・考え方・身体の状態”を総合的に整えることが鍵になります。
不眠症と間違われやすい・見逃したくない状態(鑑別)
不眠の背景に、別の病気や状態が隠れていることがあります。特に次は重要です。
睡眠関連疾患
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)
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いびき、呼吸が止まる、日中の強い眠気、起床時の頭痛
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むずむず脚症候群(RLS)
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夜に脚がむずむずして動かしたくなる、入眠できない
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周期性四肢運動障害(PLMD)
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睡眠中の脚のピクつきで睡眠が分断される
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概日リズム睡眠障害
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体内時計のズレ(夜型化、交代勤務、時差など)
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精神疾患・心理状態
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うつ病(早朝覚醒、熟眠感低下、日中の意欲低下など)
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不安症(考えが止まらない、身体が緊張する)
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PTSD(悪夢、過覚醒)
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双極性障害(睡眠欲求が減って活動性が上がる時期がある)
身体疾患・症状
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痛み、かゆみ、咳、頻尿、逆流性食道炎、更年期症状(ほてり)など
不眠症のセルフチェック(受診前に把握しておくと役立つ情報)
受診時に状況が整理できると、原因の見立てが正確になります。
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眠れない症状のタイプ(入眠困難/中途覚醒/早朝覚醒/熟眠感低下)
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どのくらい続いているか(開始時期、悪化・改善の波)
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平日と休日の睡眠スケジュール(就床・起床・昼寝)
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寝床での過ごし方(スマホ、考えごと、仕事)
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カフェイン、アルコール、喫煙、運動、入浴の時間
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服用中の薬、サプリ(眠気や覚醒に影響するものがある)
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日中の眠気(居眠りの有無、運転への影響)
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いびき・無呼吸・むずむず脚・悪夢などの随伴症状
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気分(落ち込み・不安・焦り)とストレス要因
可能なら1〜2週間の睡眠日誌(就床時刻、眠れた感覚、起床時刻、昼寝、カフェイン)をつけると大きな助けになります。
不眠症の治療の全体像(「薬だけ」ではなく組み合わせで改善)
不眠症治療は、一般に以下の柱を組み合わせます。
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睡眠衛生指導(生活習慣・環境の見直し)
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認知行動療法(CBT-I)(不眠を維持するクセの修正)
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薬物療法(症状と背景に応じて適切に、必要最小限で)
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背景疾患の治療(うつ・不安・SAS・痛みなど)
慢性不眠では特に、CBT-I(不眠に対する認知行動療法)が中核になります。薬は「眠る力を立ち上げる補助輪」として用いるイメージが近いです。
睡眠衛生(眠りを邪魔しない生活の整え方)
「眠れないから頑張る」方向が逆効果になることも多いので、ポイントを絞って整えます。
起床時刻を固定する(最重要)
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眠れなかった日でも、起床時刻を大きくずらさない
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休日の寝だめは体内時計を遅らせ、月曜の不眠を悪化させやすい
ベッドは「眠る場所」にする
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ベッドでスマホ・仕事・考えごとをしない
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眠れないまま長時間寝床にいると、脳が「ベッド=覚醒」と学習しやすい
昼寝は短く・遅い時間は避ける
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どうしても眠い場合は、短時間(目安20分前後)
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夕方以降の昼寝は夜の睡眠圧を削りやすい
カフェイン・アルコールの注意点
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カフェインは体質差が大きく、午後の摂取で夜に残る人も多い
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アルコールは一時的に眠気を誘っても、中途覚醒や浅眠を増やしやすい
光・運動・入浴の活用
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朝の光は体内時計を整える(起床後の明るさが大切)
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適度な運動は睡眠の質を上げやすい(ただし寝る直前の強い運動は逆効果のことも)
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入浴は「深部体温の変化」を使う(自分に合う時間帯を探す)
寝る前の脳の刺激を減らす
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寝る直前のSNS、ニュース、仕事メールは覚醒を上げやすい
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「考えが止まらない」人は、寝る前に短時間のメモ(ToDo書き出し)で頭の回転を落とす工夫が有効なことがあります
認知行動療法(CBT-I)の要点(不眠を“続かせる仕組み”をほどく)
CBT-Iは、不眠を維持するパターンに介入します。代表的な要素は以下です。
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刺激制御:眠い時だけ寝床へ/眠れない時は一旦寝床を出る
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睡眠制限療法:寝床での時間を適正化し、睡眠効率を上げる
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認知再構成:「眠れないと終わり」など極端な思考を緩める
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リラクセーション:過覚醒(緊張・思考の回転)を下げる
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睡眠教育:睡眠の自然な変動や個人差を理解し、不安を下げる
慢性不眠の多くは、「眠れないこと」そのものよりも、**眠れないことへの反応(不安・早寝・寝床滞在の長さ)**が燃料になります。ここを丁寧に整えると、改善が安定しやすくなります。
薬物療法(睡眠薬)の考え方:効果と注意点
睡眠薬は、状態に応じて適切に使うと助けになります。一方で、自己判断で増減したり、長期に漫然と続けたりすると問題が起こり得ます。
よく使われる薬の方向性(概念)
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入眠を助けるタイプ
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途中で起きるのを減らすタイプ
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睡眠リズムを整える方向の薬
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不安や抑うつが背景にある場合の治療薬(結果として睡眠が整う)
※薬の種類は多く、体質・年齢・併存症・服薬中の薬との相性で最適解が変わります。
注意が必要なポイント
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翌日の眠気・ふらつき(転倒リスク、運転リスク)
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記憶の抜けや行動(体質や薬剤で起こりうる)
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依存・耐性(特に一部の薬で注意)
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アルコールとの併用は危険性が増す
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高齢の方、呼吸器疾患のある方は特に慎重な調整が必要
当院では、生活・心理面の治療(CBT-I)と併用し、必要最小限の量と期間を意識しながら、無理のない減薬・卒薬も含めて一緒に方針を立てます。
不眠症とメンタルの関係(うつ・不安との相互作用)
睡眠は心の状態と強く結びついています。
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不眠が続くと、不安や抑うつが強まりやすい
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逆に、うつ病・不安症があると、入眠困難・早朝覚醒・熟眠感低下が起こりやすい
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「眠れないことへの焦り」が強いほど、交感神経が高まり、眠りが遠のきます
睡眠だけを切り離すのではなく、ストレス・気分・生活リズム・身体症状をまとめて整えるのが近道になることがあります。
受診をおすすめするタイミング(放置しない方がよいサイン)
次のような場合は、早めの相談をおすすめします。
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眠れない状態が数週間以上続き、日中の支障がある
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不眠に伴い、不安・落ち込み・意欲低下が強くなっている
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眠気で運転や仕事の安全に影響が出ている
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いびき・無呼吸が疑われる、脚のむずむずが強いなど、別の睡眠疾患が疑われる
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市販薬・飲酒でしのいでいる、睡眠薬が増えてきた
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妊娠中・授乳中、高齢、持病があり、薬の選択に注意が必要
当院での診療の流れ(初診で行うことのイメージ)
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現在の睡眠パターンと生活リズムの整理(必要に応じて睡眠日誌)
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不眠のタイプ(入眠困難/中途覚醒/早朝覚醒)と経過の確認
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背景要因(ストレス、環境、身体症状、服薬、嗜好品)の確認
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うつ・不安などの併存の評価
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必要に応じて、睡眠時無呼吸などの可能性も含めた判断
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治療方針の共有(睡眠衛生+必要時の薬物療法)
「睡眠を整えること」は、気分・不安・身体の回復力を底上げし、日常のパフォーマンスを取り戻す土台になります。眠れないことを一人で抱え込まず、気軽にご相談ください。
